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製造業 DX × 3D 成功のヒント|03.日本電子における現場主導の VR 展開

2021年11月17日

03.日本電子における現場主導の VR 展開

ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志


AI や VR など、あらゆるテクノロジーは浮き沈みが激しいものです。それを体系化したのが米国の調査会社、ガートナー(Gartner, Inc.)が提唱する 「ハイプ・サイクル」 という概念です。

ガートナーのハイプ・サイクルは、テクノロジとアプリケーションの成熟度と採用状況、およびテクノロジとアプリケーションが実際のビジネス課題の解決や新たな機会の開拓にどの程度関連する可能性があるかを図示したものです。ガートナーのハイプ・サイクルのメソドロジは、テクノロジやアプリケーションが時間の経過とともにどのように進化するかを視覚的に説明することで、特定のビジネス目標に沿って採用判断のために必要な最適な知見を提供します。

ガートナーのハイプ・サイクル (出典:ガートナー リサーチ・メソドロジ ハイプ・サイクル)
ガートナーのハイプ・サイクル
(出典:ガートナー リサーチ・メソドロジ ハイプ・サイクル)

【ハイプ・サイクルの仕組み】

各ハイプ・サイクルは、テクノロジ・ライフサイクルの5つの重要なフェーズを深く掘り下げます。

  • 黎明期: 潜在的技術革新によって幕が開きます。初期の概念実証 (POC) にまつわる話やメディア報道によって、大きな注目が集まります。多くの場合、使用可能な製品は存在せず、実用化の可能性は証明されていません。
  • 「過度な期待」 のピーク期: 初期の宣伝では、数多くのサクセスストーリーが紹介されますが、失敗を伴うものも少なくありません。行動を起こす企業もありますが、多くはありません。
  • 幻滅期: 実験や実装で成果が出ないため、関心は薄れます。テクノロジの創造者らは再編されるか失敗します。生き残ったプロバイダーが早期採用者の満足のいくように自社製品を改善した場合に限り、投資は継続します。
  • 啓発期: テクノロジが企業にどのようなメリットをもたらすのかを示す具体的な事例が増え始め、理解が広まります。第2世代と第3世代の製品が、テクノロジ・プロバイダーから登場します。パイロットに資金提供する企業が増えます。ただし、保守的な企業は慎重なままです。
  • 生産性の安定期: 主流採用が始まります。プロバイダーの実行存続性を評価する基準がより明確に定義されます。テクノロジの適用可能な範囲と関連性が広がり、投資は確実に回収されつつあります。

もちろん、シーズとニーズがマッチしていなければ一旦消えてしまうテクノロジーもあります。たとえば、著者のこれまでの経験を振り返ってみると、1990年代にラピッドプロトタイピングとして出現した 3D プリンターは 2012~2013年に大ブームを迎え、一方、現在、家庭用 3D プリンターの話題はあまり聞かなくなりました。そして、2016~2018年に何回目かのブームを迎えたのが VR (Virtual Reality) です。これは、どう推移していくでしょうか。

ラティスは、VR の中でも製造業向けに特化した 「現場の現場による現場のための」 “XVL VR” を開発してきました。今回は 2021年5月に開催した Web セミナー* における、日本電子株式会社(以下、日本電子) IT 本部 佐藤 美和子氏の講演を参考に、同社での XVL VR 導入経緯から、ハイプ・サイクルのメソドロジを意識しながら、成功に至る導入手法を考えてみましょう。
*参考:3D デジタルトランスフォーメーションセミナー 2021

2014年、早くも始まった日本電子の VR 検証

2000年以前、VR は高価なハードウェアと莫大なコンテンツ開発コストを必要とする割には、まだまだリアリティに欠けていました。そのため産業用途では、さまざまな VR デバイスやソフトウェアが登場しては、廃れていくという歴史を繰り返してきました。2015年以降の大きな変化は Meta (旧 Facebook) の Oculus に代表されるような B2C 市場を対象としたエンターテインメント向け VR 市場が一気に開花しようとしているという点です。VR 機器の出荷が桁違いに増え、価格が劇的に下がり、同時にハード・ソフトの進化でリアルな 3D モデルを再現できるようになりました。今回こそ、VR は製造業にも定着するでしょうか?

電子顕微鏡などの分析装置や、医用機器、半導体製造機器を製造販売する日本電子は、2002年以降、積極的に 3D CAD 導入を進め、今では 9割以上の出図が 3D ベースになっています。また、2004年には製造や生産技術分野で XVL を導入、3D データを利用した作業指示書作成にも積極的に取り組み、コンカレント開発を推進してきました。

大型で高価な機器を開発する同社では、気軽にモックアップ作成はできません。このため VR 活用の意義が大きいのです。2014年には早くも VR に着眼し調査を開始、体験会を実施したことで、各部門において何に活用できるか模索し始めます。分かってきたことは、多岐に渡るものづくりの課題を VR は解決できるということです。実際、大型の電子顕微鏡の工場見学では VR の適用を開始し、製品の設置や外装設計のレビュー、実機完成前に組立手順の検討といった様々なシーンでも適用の検討を開始しています。

製造業にとって VR はなぜ有効なのか?

それにしても 3D で設計しモニター上でレビューしているはずの同社で、どうして VR レビューが有効なのでしょうか? それは実物大でモノが見える VR では、感覚がつかみやすいからです。同社のように人より大きなモノの検証では、モニター上の検証では気付かないことでも、体感してみて初めて気づくことが多数あります。これまでは、試作したモックアップで見つけていた問題を、設計モデルの段階で、VR で発見し解決できるようになるのです。

工場見学も実機がそこにあるわけですから、実際見学する方がはるかに印象的のように思えます。しかし、VR による工場見学が印象に残るのはなぜでしょうか? それは外装カバーをとって構造を見せる、その断面を見せるなど、VR では詳細に内部機構を提示できるからです。内部構造を見せにくい実機だと、かえって技術力や精密さを伝えにくいのです。VR であれば 3D モデルの見せ方は現場で自在にアレンジできます。コロナ禍では遠隔地での工場見学すら実現できるので、好印象をアピールする貴重な機会となるでしょう。

日本電子における XVL VR 活用事例 (講演資料より引用)

ラティスは何を VR の中で実現しようしてきたか?

一方、ラティスは 「現場の現場による現場のための VR」 を目指し、XVL VR の開発コンセプトを ① 準備レス、② 実機レス、③設変レスの実現 としました。現場での VR 定着のボトルネックは、VR データやコンテンツの準備に大きな手間がかかることです。手間をかけて作成したデモを見た人は、一様に凄いと言ってくれます。しかし、この手間が大変で現場への定着には至らないのです。さらに致命的なことは、電子顕微鏡レベルの複雑さになると 3D データが重たすぎて VR 表示が使い物になりません。そこでデータを間引くということをしていましたが、それでは VR 表示が実機と異なってしまいます。結局、モックアップで確認しようということになって本末転倒です。

そこで、ラティスでは大容量 3D モデルを軽快に扱える XVL の特徴を生かし、VR 表示に最適化することで、製品を表現する XVL モデルをそのまま表示できるようにしました。CAD で 3D 設計したデータがそのまま使えるので、準備が不要になります。しかも、大容量 3D で実機同等のレビューを実現したのです。さらに、ものづくり現場で必要となる部品移動や接触判定、アニメ再生などの機能を提供し、現場のベテランの VR レビュー参加を促そうとしています。製造視点での VR レビューを可能にすることで、設計変更をとことん減らすことに挑戦しているのです。

日本電子における VR の評価ポイントは?

これらの開発サイドの考え方は、日本電子にはどう映っていたのでしょうか。同社では複数の VR ソフトを評価し、XVL VR の導入を決めました。その比較表を見てみると、第一の評価項目が 「変換のしやすさ」。これはまさに準備レスに対応したものです。社内に XVL があれば、変換やデータの加工をせず、それをそのまま VR で利用できるのです。第二が 「画面遷移の滑らかさ」。つまり、大容量 3D モデルで実機と同等のモデルをスムーズに表示すること、つまり実機レスに対応する部分です。下表の三項目以降の機能は設変レスを実現するために提供してきた機能です。現場で使える VR を目指したラティスの開発指針は同社のニーズと合致していたのです。この評価を経て、同社は 2020年 XVL VR を導入しました。

日本電子における VR 選定時の評価ポイント (講演資料より引用)

コロナ禍で有効になる VR 機能とは?

ラティスでは、コロナ禍の長期化に備え、遠隔地間を結び VR を行う機能も開発してきました。実際日本電子においても、VR の強みを活かせることから、地方にある製造拠点と、東京の生産技術部署間での擦り合わせを検討しています。実物大の装置をラインに並べた際の生産スペースや生産性の検討は、図面やモニター上ではイメージを掴むことが難しく、VR で実寸大の 3D を遠隔地間で共有し擦り合わせることを考えています。

日本電子での VR 導入の経緯で特筆すべきは、「現場主導で何に使えるかを見極め、現場がその有効性を認識することで適用範囲を広げていく」 という点です。IT 部門は、あくまで環境を提供し VR 体験を促すことに徹しています。VR は実際に体験してみないと本当の凄さを認識することはできません。実際に VR を体験した現場からは、作業員やサービス員の教育にも使えるのではないか、外注先の指導にも使えるといったアイデアが続々と出てきたといいます。

VR 活用可能な領域 (講演資料より引用)

前述したハイプ・サイクルのメソドロジでは、幻滅期の後、「啓発期」 を迎え、生産性の安定期に向かいます。現場主導の日本電子の場合には、まさに現場での評価が高まった段階と考えられます。当然、テクノロジーに対する期待や要望も多数出てきます。ラティスでは、VR が生産性に寄与する生産性の安定期を迎えられるよう機能強化に注力しています。

END

・XVL はラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名および製品名は各社の登録商標または商標です。

コラム 「製造業 DX × 3D 成功のヒント」 これまでの記事はこちらから


著者プロフィール

鳥谷 浩志 代表取締役 社長執行役員

鳥谷 浩志(とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで 3D の研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量 3D 技術の 「XVL」 の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を 3D で実現することに奔走する。XVL は東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の 3D テクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3D デジタル現場力」 「3D デジタルドキュメント革新」 などがある。


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製造業 DX × 3D 成功のヒント|03.日本電子における現場主導の VR 展開