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製造業DX×3D成功のヒント|11.ファーストペンギンが切り開くDXへの道

2023年4月11日

11.ファーストペンギンが切り開くDXへの道

ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志


欧米ではリスクを恐れず初めてのことに挑戦する精神の持ち主を、賞賛を込めて「ファーストペンギン」と呼びます。ペンギンは集団で氷の上を移動し、海の前の断崖に集合します。最初の一羽が海に飛び込むと次々と飛び込み、皆が海中の魚にありつくといいます。その海中には天敵のアザラシやシャチが待ち構えているかもしれません。しかし、ファーストペンギンが海の安全を自らの身をもって示すことで、それに続く集団が安心して餌にありつくことができるのです。

図1.最初に海に飛び込むファーストペンギン

この話はDX(デジタルトランスフォーメーション)に挑む製造業のようだと感じないでしょうか。新たなデジタル技術を利用してプロセスやビジネスモデルを変革しようとする時、そこには数多くの失敗のリスクがあります。しかし、そこにリスクを背負って、誰か先頭に走る人が出てこないと挑戦は始まりません。リスクを背負ったDXリーダーが先頭に立って推進することで、企業は生産性の革新という大きな果実を手にすることができます。今回は小型建設機械をグローバル展開する株式会社竹内製作所(以下、竹内製作所)の生産技術から工場に至る分野のDX推進の事例を紹介しましょう。これを主導した情報システム部長の土屋琢郎氏は、まさにファーストペンギンだと私が感じた人です。なお、本稿は2023年2月に開催された XVL 3次元ものづくり支援セミナー における土屋氏の講演内容に基づいています。

拡大する生産をITでいかに支えるか?

主要市場が海外である竹内製作所は、2023年の米国新工場に続き、2024年長野県にも新工場を立ち上げ、欧米からの旺盛な需要に対応しようとしています。急激に生産量を拡大しながら、同時に生産性も同時に上げていくには、ITを利用して既存の課題に加え新製造拠点からの要望に応えていく必要があります。幸い同社は2012年頃から 3DEXPERIENCE CATIA を導入し3D設計を進めてきました。また、E-BOM(部品表)の作成も並行して進め、生産管理のためのERPも導入、安定的に運用してきました。一方、生産技術部門のデジタル化はまだ発展途上で、試作の時点で組立手順は決めるものの、M-BOM(工程に沿った部品表)を作成するには至らず、設計変更が発生すると職人技で対応するという問題がありました。

これに対し、同社では工程を設計するプロセスを確立したいという願いがありました。工程設計が不完全であれば、ERPと現場の部品の状況が一致しなくなり、部品のきめ細かな払い出しができずに生産性を低下させるといった問題も起こります。そこで、同社が選択したのが3Dを活用して工程設計をし、デジタルで組立工程の完成度をあげるという方法です。土屋氏は3Dデータによる工程設計は下記の一石六鳥であり、これほど効率的な手法はないと指摘します。

  1. 組立手順と経路まで3D検証することで生産現場の課題を前出し、早期解決できる
  2. そこから3Dアニメーション付きの作業指示書を作成しグローバルに工場支援ができる
  3. 同様に教育や学習資料を作成し展開できる
  4. 現場の状況に即した、きめ細かい部品の払い出しが実現できる
  5. 組立手順付きの3Dモデルはそのまま品質管理の基礎データとなる
  6. 同時に生産システムの基礎データともなる

こうして同社ではXVLの工程編集機能を利用し、生成された3D作業指示書を XVL Web3D 技術でグローバル配信するという方針を立てます。

図2.XVLを利用した3D工程設計の例(画像提供:竹内製作所)

噴出する課題との闘い

たとえ一石六鳥であってもプロジェクト完遂までには、たくさんの壁に突き当たります。新しく3Dで工程設計をするプロセスを構築するとなると以下のような疑問が噴出したといいます。

  1. XVLで作成した工程情報をどう管理するのか?設計変更にどう追従していくのか?
  2. 工程設計は工場と生産技術部門のすり合わせが必要で時間も工数もかかる
  3. 何のための誰のための作業指示書か。どこまでの粒度で作成するのか?
  4. 仕様の異なる製品ごとにすべて工程設計をするのか?

推進リーダーの土屋氏は現場部門の聞き役と部門間のコーディネーターに徹し、これを一つ一つ解決していきました。情報部門という立場を生かし、各部門の要望をじっくりと聞いた上で、DX推進のファシリテータになったわけです。たとえば、作業指示書は現場の組立作業員が見る、米国工場をターゲットとするので3Dアニメーションで分かりやすいものを作成する、現場にはフォルダは見せない、表示はタブレットでも可能とするといった方針を立て、関係部署と調整しながらプロジェクトを進めていきます。米国にまで3Dデータを見せて大丈夫かという反対論には、Web3Dで表示する分にはダウンロードできないので、情報漏洩のリスクはないと反論します。新たに導入された3Dによる工程設計の作業は、反対するどころか担当者は積極的に取り組んでくれました。こうやって完成した直感的に理解しやすい3Dの作業指示書を見た米国工場では、作業員から “XVL!XVL!” のシュプレヒコールが響いたといいます。

米国工場での成功は本当に輝かしいですが、生産技術から工場までを貫くDXの本質は、3Dモデルを利用して工程設計を行い、試作段階で生産要件をデジタル検証しているところにあると私は見ています。M-BOMや組立手順、組立経路まで内包する3DのXVLモデルがあるからこそ、試作機でトライする前に仮想試作で課題を発見し、それに対処することができるわけです。実際に新機種の工程設計を3Dで行い、これまで試作機で起こっていた課題を前段階で発見できるようになったといいます。実機の試作は、こうして完成した3D作業指示書を見ながら、試作機を組み上げていき問題がなければ、それがそのまま量産のための作業指示書となっていきます。この結果、部品の払い出しチェックも試作段階からできるようになっていったわけです。こうして、3Dモデルをベースとした次世代プロセスが完成していきます。

BOMだけではダメなんです!

セミナーの中で、土屋氏は工場やサービス現場、工場と生産技術部門の打ち合わせ風景の写真を見せて、「BOMだけではダメなんです!」と主張しました。その心は、現場が必要とするのは組立の手順やサービス手順であって、BOMは前提にはなるがそれだけではまだまだ不十分だという意味です。もちろんPLMだけでもダメです。3DとE-BOMが連携して初めて、3Dデジタルツイン(現物を置き換え可能な3Dモデル)の土台ができ、そこにM-BOMや組立順序が加わって工程検証ができ、作業指示書が完成していくわけです。こうして3Dデジタルツインが完成していくと次にやるべきものも見えてきます。この新たな工程設計の仕組みを新工場に適用し定着させていく、そのためにはM-BOM編集を効率化し、設計変更への追従をやりやすくする、さらには、S-BOM(サービス部品表)編集プロセスを確立し、サービスDXに切り込んでいきたいと土屋氏は語ります。こうして製造業DX×3Dの適用範囲は成功体験を積み重ねながら、拡大していきます。

こういった小さなDX成功体験の順次拡大がなぜ可能になるのか、XVLを開発したラティスの視点からDXが自然に拡大していく仕組みを補足しておきましょう。下図のようにPLMからBOM、ERPといったシステムのデータを吸収しながら3DデジタルツインとしてのXVLの表現範囲は広がっていきます。それぞれの現場が必要とする構成情報をM-BOMあるいはS-BOMから引き出しXVLに統合し検証することで、デジタルで製造品質やサービス品質を向上させることができます。また、それぞれの現場が必要とする組立やサービス情報をXVLに紐づけることで、工場では作業指示書を、サービス現場ではパーツカタログを表示することができるのです。こうしてPLM情報を徹底的に活用し、生技DXから工場DX、さらにはサービスDXへと順次DXを成功させていこうというのが「XVLパイプライン」という思想です。

図3. 製造業DX×3D実現への道筋

こうして生成された3D作業指示書やサービスマニュアルはXCMというXVLデータを管理する専用データベースで管理することで、設計変更への追従や仕様違いの製品の3D表現を可能にしています。さらに、ラティスでは、最新のXR技術にも対応しているので、製造品質の造りこみにはVRを、工場では現物上にデジタル情報を表示するARをという形で最先端の技術で分かりやすく情報を活用することができます。たとえば、XVL AR技術を利用すれば、作業指示書や、3Dモデルの持つ部品番号や寸法といったデータも現物上に表示することができます (参考:YouTube)。このようにXVLデータを最新のテクノロジーで活用し、DXから得られる果実を徐々に拡大できるのもXVLパイプラインのメリットです。

本当に足りないものは何か?

土屋氏の主張する「BOMだけではダメなんです」において、最後に足りないピースが残っています。それはDX成功に向けて必須の部分、組織とプロセスの変革を推進するヒトです。設計~生産技術~工場~サービスと部門横断でDXを進めようとすれば、全体システムを描き、利害の対立する組織間の調整を行い、新プロセス導入に反対する現場の賛同を得ながら、システム構築を推進する人材が何としても必要です。実際、多くの企業でDXに失敗するのは、この組織変革できる人材の力量不足が大きいでしょう。負担が増えるような変革への組織的な反対、既存のやり方を頑なに変えない現場に対抗できないわけです。推進リーダーにはアウトプットを強く期待されますが、新システムの構築は試行錯誤しながら進めていく部分もあって、それなりに時間がかかります。そのプレッシャーに耐え切れないのです。

だからこそ、DX成功には土屋氏のようなファーストペンギンがなんとしても必要です。実際、システムを共同で開発したラティスの目から見ると、土屋氏が2019年にチームをリードするようになってから、同社のDXが急速に進展していきました。このあたりの事情を同氏は、システムが大きくなってくると議論も発散していくが、まずは、アジャイル的に開発して、実現の可能性を探りながら、構想を固めることが大事と指摘します。これでいけると確信できれば、徐々に仲間が増えて推進のエネルギーが増していきます。工程設計のデジタル革新をしなければいけないという思いをもったメンバーは他にもいたのです。ファーストペンギンの役割は、メンバーのその思いを自らの身をもって確信に変えることなのです。

ポリアンナ効果と製造業DX

心理学にポリアンナ効果という言葉があります。1910年代にベストセラーとなった「少女ポリアンナ」に由来する言葉で、人は肯定的な評価を好み、肯定的な体験ほど思い出しやすいという状況を指します。1980年代に日本でもアニメ化されて放映され、その中ではポリアンナは周りから冷たく扱われても、毎日「よかったこと探し」をして楽観主義者として日々を楽しく過ごしました。時間のかかる製造業DX成功に向けては、成功体験を次々と広げていくというポリアンナ効果を狙うことも有効でしょう。もちろん、大局を見て本来のDXの目的を見失なわいことも大切です。

竹内製作所の事例で言えば、海外工場で作業指示書展開に成功したら、そのプロセスを国内の新工場にも適用する、そこにAR技術を採用し現場の生産性をさらに上げる、さらにサービスBOM構造を定義しサービスマニュアルのグローバル配信も行うといったことが考えられます。こうした道が開けたのも、ファーストペンギンが、まず大きなリスクの潜む極寒の海に飛び込み、そこに豊富な幸に恵まれた世界があることを示してくれたからです。ファーストペンギンは大きな目標を見据え、その次の成功の海に飛び込む勇気をもっています。「世の中の情報システム部は見識も技術も持っているはず。自社でプログラム開発をするなど、もっともっと頑張ってほしい」と土屋氏は言います。DX推進に悩む製造業各社にファーストペンギンが現れることを祈っています。

END

【用語解説】

  • 製造業DX×3D:「製造業DX×3D」とは、現地現物のすり合わせや図面を読み解く現場力が必要な日本の製造業(=デジタル家内制手工業)に対して、XVLパイプラインによる3Dデジタルツインのデータの流れをつくることで、製造業全体でデジタルで擦り合わせが行われ、デジタルで現場力が強化されるという、日本の製造業の強みをデジタルで引き出すという考え方。
  • XVLパイプライン:3Dデジタルツインの情報の流れをつくり、組織の垣根を超えてその情報を徹底活用することでDXを推進する仕組みのこと。
  • 3Dデジタルツイン:「3Dデジタルツイン」とは、現物と図面の双子となる3Dモデルのこと。現地現物を軽量XVLで表現し、図面情報情報をXVLに集約することで、現物に近い3Dモデル(=3D形状+構成情報+ものづくり情報)になるという考え方。

【その他】

  • ・XVL、3Dデジタルツインはラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
    ・3DEXPERIENCE、CATIA は、アメリカ合衆国、またはその他の国における、ダッソー・システムズ(ヴェルサイユ商業登記所に登記番号B 322 306 440 で登録された、フランスにおける欧州会社)またはその子会社の登録商標または商標です。
    ・その他記載されている会社名、製品名など名称は各社の登録商標または商標です。

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著者プロフィール

鳥谷 浩志 代表取締役 社長執行役員

鳥谷 浩志 (Hiroshi Toriya)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで3Dの研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量3D技術の「XVL」の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を3Dで実現することに奔走する。XVLは東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の3Dテクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3Dデジタル現場力」 「3Dデジタルドキュメント革新」 「製造業のDXを3Dで実現する~3Dデジタルツインが拓く未来~」などがある。

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製造業DX×3D成功のヒント|11.ファーストペンギンが切り開くDXへの道