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製造業の DX に 3D で貢献する|07.「設計情報の流れを創る」 システムのあり方

2020年7月15日

07.「設計情報の流れを創る」 システムのあり方

ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志

7月初旬の東京は連日、新型コロナ感染者が百人を超え、不気味な様相です。海外でも米国では毎日 5万人を超える感染者が出ているということですから、予断を許しません。Dispatch Argus というアメリカの新聞社の 記事 に、5月のサンフランシスコの公園のとても印象的なビデオがありました。これを見ると、With コロナの時代にはソーシャルディスタンスをとって生活することが当たり前になり、公園でも 2メートル離れた自分の輪の中だけで過ごしているのがそれを象徴しています。在宅勤務が進み、たまに出社してもオフィスでソーシャルディスタンスをとる社内の人間関係も、実はこのような風景のようになっているかもしれません。そうだとしたら、この円と円の間をデジタルで繋いでコラボレーションの仕組みを充実させていく必要があるでしょう。そして、AR や MR のような新しい技術でそのコラボレーションの絆を太くし、製造業のDXを実現していく必要があります。今回は、それを実現するための 「設計情報の流れを創る」 システムのあり方を考えてみましょう。

設計製造を貫くシステムの二つの考え方

少し大胆に、設計製造のシステムのアーキテクチャを二つの実現手法に分けて考えてみましょう。一つは 「マンモス型」 で、もう一つは 「犬ぞり型」 です。マンモス型では、設計の PLM システムの中にすべての部品表情報を持ち、それを全社で参照するという方法です。マンモスがそのデータベースを牽引していくイメージです。統合データベースに設計製造に関わるすべての情報が管理され、全社でその情報を参照すれば、非常に統一された形で仕事ができます。しかし、変化の激しい時代には、システムが固定的になり、変化に追従できず非効率化し、その運用コストも増大するというリスクがあります。実際、設計と製造で見たい情報構造が変わり、仕事のやり方も変わってくるという中では、マンモス型のシステムはあまり得策ではありません。

設計製造システムのアーキテクチ「マンモス型」
設計製造システムのアーキテクチ「マンモス型」

変化に強い犬ぞり型システム

一方の犬ぞり型は、マンモスの創る統合データベースにある設計情報を多数の犬が協力して引っ張っていくイメージです。PLM 内の設計情報をベースにデジタル情報の流れを創ります。ラティスでは、これを XVL パイプラインと呼んでいます。XVL にはある時点での、設計情報のスナップショットが入ります。XVL による情報を流すことで、それぞれの部署が必要な情報を付加することで、独自の活用を進めていくことができます。XVL の持つ 3D 形状と部品表の情報に組付工程の情報が付加されば作業指示書を、サービス情報を付加すればサービスマニュアルを半自動的に生成することができます。

設計製造システムのアーキテクチ「犬ぞり連携型」
設計製造システムのアーキテクチ「犬ぞり連携型」

流れる情報量が増えてくると、それを管理する必要が出てきます。その場合は必要に応じて、たとえば、3D 作業指示書やパーツカタログの管理をするシステムを導入していけばいいのです。システム全体は小規模化し、分散環境で最適なシステムを構築することができます。環境の変化にも柔軟に対応でき、必要なシステムを選択的に導入していくことができます。環境の変化にも強く、安いコストでシステムを導入していくことが可能です。結果的に、紙によるアナログ情報の流れにとって代わることで、DXが推進されてくるでしょう。

出図前はデジタル擦り合わせを、出図後はデジタル現場力を強化する

犬ぞり型のシステムでは、設計承認後の出図という儀式を境にデータの扱いが変わってきます。出図は製品設計の完了を意味しますが、その前にはデザインレビューや検図というプロセスがあります。かつてのコンカレント・エンジニアリングは、サイマルテニアス・エンジニアリングとか同席設計と呼ばれるようになりました。設計や生技など関係者が連携して、設計段階で製造上の課題にも配慮した設計を行われるようになりました。3D デジタルツインを利用したデジタル擦り合わせです。ここで活躍するのが、第四・五・六回で紹介した XVL VR/MR/ARと いったソリューションになります。

ラティスの提供するソリューションの考え方
ラティスの提供するソリューションの考え方

一方、出図後は、設計情報に各部門が必要とする情報を付加して、展開することが重要になります。ここに PLM で管理する設計データと同期された XVL があれば、XVL に必要情報を配信して現場に送ることができます。この狙いはデジタルの力で日本の現場力を活性化することです。分かりやすい 3D 組立指示書、3D 図面、3D パーツカタログを配信し、現場がそれを活用するようになれば、紙図面や帳票に代わりデジタル情報の流れを創ることができます。犬ぞり型のシステムアーキテクチャは日本の製造業の強みを生かしながら DX を推し進める強力な原動力になるのです。

犬ぞり型アーキテクチャに求められるもの

ラティスが、この犬ぞり型のアーキテクチャにいかにたどりついたのか、その背景から説明しましょう。2010年代、超軽量 3D フォーマットの XVL が製造業で広く流通し、後工程での作業指示書やサービスマニュアル等に利用されてくると、次のような課題がそのユーザーから指摘されるようになりました。数が少ないうちは XVL をフォルダで人手により管理していたのですが、それが、だんだんと手に負えなくなってきたのです。

  • ( 1 ) CAD のどのデータから XVL が生成されたのか分からない。つまり、正しい設計データに対応する XVL がどれか分からなくなった。
  • ( 2 ) 作業指示書、サービスマニュアルがどの XVL から生成されたのか分からない。この作業指示書は正しい設計データから作成されたものか分からなくかった。
  • ( 3 ) せっかく作業指示書を作成したのに設計変更で XVL が更新され、もう一度作成し直しになった。とても運用に乗らない。

もちろん、マンモス型でも PLM システムを作り込めば、これらの問題は解決できます。しかし、変化に追従する柔軟なシステムを求めるのであれば、犬ぞり型の方が圧倒的に優位です。あるユーザーでは PLM システムは設計のデータを管理するもので、そのデータを後工程から勝手に修正して欲しくないと言われたことがあります。「後工程の後工程による後工程のためのデータ管理システム」 があった方が合理的です。実際、現場にデジタルの主導権を与えることは、デジタルで現場力を強化するためにも、最良の一手でした。

XCM という解

このような背景で 「正しい設計情報に基づくデジタル情報の流れを実現する」 ことを目的に開発したのが、XVL Content Manager(XCM)でした。PLM と連動することで、設計承認された CAD データが正当な XVL として管理できます。さらに、その正当な XVL から生成された作業指示書やサービスマニュアルをその XVL と紐づけます。これによって、上流で設計変更があった場合、新たな XVL が生成され、それに連動して作業指示書やサービスマニュアルを半自動生成することができるようになりました。どれが正当な設計情報に対応する XVL かを XCM が教えてくれるようになったわけです。

XCM のコンセプト~正しい設計データの流通を保証する~
XCM のコンセプト~正しい設計データの流通を保証する~

このユーザーメリットは想定を超えるものでした。設計変更を気にすることなく、後工程で指示書やマニュアル作成に取り組めるようになり、設計周りだけでなく、後工程もコンカレント・エンジニアリングに取り組めるようになったのです。これこそ、DX の目指しているゴールと重なります。さらに、犬ぞり型のシステムは、少しずつ増強していくことが可能です。ある事業部の指示書で大きな効果があれば、別の事業部にも展開すればよいのです。指示書で効果があれば、マニュアルにも展開すればよいのです。実際の導入ユーザーでは XCM の導入により、設計部門と活用部門、そして IT 部門をまたぐように XVL パイプラインが敷設されていきます。こうして、製造業の DX が全社的に実現されていくのです。

オンライン申請の罠から学ぶこと

コロナ不況で苦しむ国民を支援する手段として 10万円の特別給付金が決定されたのは 2020年4月20日でした。さっそくオンラインで給付を申し込んでも、なかなか給付されない市町村が数多くあったと報道されています。オンラインでの申請をプリントアウトして、他のデータベースと人手で照合し、間違いがあったら申請者と調整し、、、というムダがあったとされています。こういった官公庁での極端な非効率性はメディアの格好の標的となり、大きな話題となりました。誰も指摘しないだけで、実は製造業の中のプロセスも、まったく同じ状況である可能性があります。このような非効率性を排除すれば、企業は大きな収益を得られるようになります。犬ぞり型という考え方が、製造業のDXを推し進める一助となれば幸いです。

今回のお話はここまで。次回は、With コロナ時代を生き抜く鍵ともなりそうなリモートワークを 3D でどう支援できるかを考えてみましょう。

・XVL はラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名および製品名は各社の登録商標または商標です。

(関連 XVL 製品情報)
※ XVL Content Manager:製品紹介ページ(サイト内ページにリンクします)

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著者プロフィール

鳥谷 浩志 代表取締役 社長執行役員

鳥谷 浩志(とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで 3D の研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量 3D 技術の 「XVL」 の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を 3D で実現することに奔走する。XVL は東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の 3D テクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3D デジタル現場力」 「3D デジタルドキュメント革新」 などがある。

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