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製造業の DX に 3D で貢献する|09.5G 時代の 3D 活用

2020年9月9日

09.5G 時代の 3D 活用

ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志

旅行も帰省も控え気味だった異色の 8月が終わり、第二波とも言われた新型コロナの拡大も少し減少の兆しが見られます。各国と比べると何とか踏みとどまっていると感じる日本。その感染者や死者の数は、米国と比較して二桁少ない数字です。日本人には何か感染しにくい理由があるのでしょうか。ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授はこの未知の理由をファクター X と呼んでいます。暑くてもマスク習慣という日本人の “民度“ だけで説明するのは難しそうです。日本人の自然免疫力がわずかに高いため、感染のチェーンが切れやすい、だから感染者が爆発的に増えないという説も提唱されています。子供の頃の傷跡の残る BCG 接種が影響した可能性もあるのでしょうか。確かに、指数関数的に感染拡大する世界では、わずかな感染力の差が、桁違いの感染者数の差を生むことはあるでしょう。これまで紹介してきた 3 Dデジタルツインモデルは活用範囲が増えれば増えるほど、その効用は指数関数的に拡大します。わずかな 3D 活用力の差が桁違いの企業力の差になるかしれません。今回は桁違いのユーザー数を生む ”XVL Web3D“ 技術の開発の背景を紹介しましょう。

5G 時代到来で XVL は危機 !?

超軽量化 3D 技術 XVL が最初に誕生したのは 2000年の頃でした。ちょうどその頃、Web3D という言葉が生まれ、インターネット上で 3D ビジネスをしようと国内外で百を超えるベンチャー企業が誕生し、ラティスは厳しい競争に直面していました。ところが現在、そこで競合した会社はほぼ残っていません。それは、当時はネット回線が細すぎて 3D をネットワーク越しに利用するという機運が起きなかったこと、そして、Web3D のもたらす効用が不明確だったからでしょう。その後、ネットワーク技術は日進月歩で進化し、ADSL や光ファイバーが生まれ、モバイル通信も 4G から大容量・低遅延の通信を特長とする 5G に代わっていこうとしています。

実は、私が恐れていたのはまさにこのネットワークが太くなり、通信が速くなることでした。大容量 3D データも即座に送れるのでは、軽量 3D として XVL の存在意義がなくなると考えたからです。しかし、XVL ユーザーでは、軽量 XVL に組立工程や各種指示、サービス手順や付随する情報を追加して活用するという流儀が定着していました。3D は分かりやすいので、そこを起点に多様な情報を取り出すということが現場で受け入れられていたのです。3D のパーツカタログの例をビデオでお見せしましょう(下図)。単なる 3D モデルを表示するだけであれば XVL の価値は失われていったでしょう。しかし、製品と同等の構造を持つ3Dデジタルツインを情報のハブとしての XVL の価値が確立しており、ネットが高速化することで使い勝手が向上し、XVL の価値はむしろ高まったのです。

もう一つの危機、ブラウザ問題

ところが、次にブラウザのプラグイン問題という新しい危機が迫っていました。XVL が普及した大きな要因の一つとして、無償ビューワ XVL Player の存在があります。3D の作業指示書、検査指示書、サービス手順書はブラウザのプラグイン、XVL Player で誰でもコスト負担なく自由に 3D 表示できる仕組みです。現在でもマイクロソフトの Internet Explorer ではこれが可能です。しかし、同社の Edge やグーグルの Chrome など新しいブラウザはセキュリティ上の問題から、続々とプラグインを許さない構造になっています。

そこで、XVL Player はダウンロードして利用する無償アプリケーションとしての配布を始め、XVL 自身は表示できるようにしました。しかし、ブラウザとの連携の道は絶たれてしまったのです。しかも、アップルの Safari など利用されるブラウザも多様化し、どんな環境でも XVL を見たいというユーザーニーズが高まる一方でした。これに対応して開発してきたのが、“XVL Web3D” という新たな技術です。Windows や iOS、 Android で稼働するタブレット端末上の多様なブラウザ内で XVL 表示を可能にしたのです。もちろん、見る側にはコストがかかりません。

さらに迫りくる次の壁、タブレットの制約

しかし、そこに別の壁が迫りつつありました。現在普及しているタブレットは CAD 端末の半分以下のメモリーしか搭載されていません。つまり、ネットワークが太くなって大容量 3D モデルが転送されてきても、メモリーの制約でタブレットでは表示できないという問題が起こるのです。3D デジタルツインを表現する XVL の最大の特徴は超軽量 3D、別の言い方をすれば、実機に対応する複雑かつ大容量の 3D モデルの表示を可能とすることでした。XVL ユーザーの多くは XVL 編集を CAD 端末レベルの高性能マシンで行います。一方、作成された 3D 指示書等は現場で普及する安価なタブレットで見たいというのが一般的です。もともと軽量な XVL は他の技術と比較して、より大容量な 3D モデルの表示が可能でした。しかし、自動車、航空機、造船、重工業、農機、建機といった大容量 3D を扱う XVL の主要ユーザーの期待は、それをはるかに超えるものでした。つまり、車一台分、20G バイトを超える 3D モデルを “XVL Web3D” で表示したいというニーズです。

それまで、XVL の大容量 3D 表示は進化する PC 能力を最大限に生かし、クライアント上のソフトウェアで最高の 3D 性能を引き出すことを実現してきました。タブレットは個人含め桁違いに多いユーザーをターゲットにしています。したがって、価格に大きく影響するような性能面の急速な進化は期待できません。5G 時代にネット回線が太くなることを見据え、サーバーとクライアント間で 3D モデルを最適にやりとりすることで、大容量 3D モデルを素早く表示し、見たいところをサクッと表示可能にした、“XVL Web3D” 技術の開発にラティスは取り組んできました。今では、下記のビデオにあるように車一台分のモデルをタブレット上に表示できます。配線系統だけ見たいということであれば、その表示に素早く切り替えることもできます。そこから、保守手順を 3D で見ることも可能です。

3D データ提供:トヨタ自動車株式会社

一気に広がる Casual3D の世界

ラティスが創業以来目指してきたのが、「だれでもいつでもどこでも 3D」 を実現する Casual3D という世界でした。製造業で 3D CAD を使用できる人は設計部署周りの人だけで、どこの会社に聞いても 3D CAD を使用できる人の割合は、たかだか全社員の数~10% 程度です。高価で操作が難しくデータも重い 3D CAD は残りの 90% の社員は見たことも触ったこともないのです。その結果、後工程では紙図面や帳票を利用して仕事をしてきました。そこで、CAD データを XVL 技術により二桁軽くすることで、組織を超えて 3D データの活用を進めようというのが Casual3D の狙いでした。つまり、「設計者だけの 3D」 を 「誰もが使う 3D」 に変えていこうとしたわけです。

Casual3D:いつでも、どこでも、誰でも 3D 活用
Casual3D:いつでも、どこでも、誰でも 3D 活用

実は、“XVL Web3D” で作成した 3D 指示書は、画面は小さいですが、スマホでも表示することができます。これはさらに桁違いのユーザーに Casual3D を広げていくことを意味します。つまり、XVL ユーザー層が企業内から、関係会社、製品の消費者にまで拡大していくのです。この際、多様なデバイスとブラウザで、アプリケーションをダウンロードすることなく、すぐ 3D が見えるという特徴は大きな武器になります。たとえば、関連会社の工場で 3D 作業指示書を見る、サービス会社のサービスマンが 3D 点検指示書を見る、顧客へ 3D カタログを使って製品を説明するといったことが可能になります。Casual3D の世界が一気に広がるのです。

Casual3D:だれでも、どこでも、いつでも、もっともっと3D
Casual3D:だれでも、どこでも、いつでも、もっともっと3D

3D を共通言語に DX を進める

これまで、Casual3D で目指してきたのは製造業の社内で 3D を利用した業務プロセスの改革でした。3D デジタルツインを共有することで業務プロセスを並列化できるという意味では、DX の入り口でした。3D の最大の特徴は分かりやすいこと、したがって、それを起点に関連する情報が取り出しやすいことがあります。これを有効に活用すれば、関係会社や業界を含めた DX を実現できます。さらには消費者まで 3D が届くようになれば、新しいサービス事業や販売形態を構築することでビジネスモデルの変革に挑戦できます。まさに、3D で DX を進めることが可能になってきたのです。

2020年6月末、東京国立市に手話が共通言語のスターバックスがオープンしたというニュースがありました。聴覚に障害があるスタッフを中心に、主なコミュニケーション手段として手話を使用して店を運営するそうです。音が聞こえないと、煮え立ったお湯の音にも、突然の来客にも気付かないかもしれません。店の運営まで課題山積だったようです。一つ一つ克服して開店にこぎつけたとのこと、スタッフの皆さんの努力には頭が下がります。もしかすると、共通言語を手話に統一することで、逆にコミュニケーションが取りやすく効率化できる部分もあったのではないでしょうか。ラティスは設計から現場、関係会社、消費者まで、3D を共通言語にすることで社会に新しい価値を提供していきたいと考えています。

今回のお話はここまで。次回は XVL Web3D の具体的な話をしましょう。

・XVL はラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名および製品名は各社の登録商標または商標です。

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著者プロフィール

鳥谷 浩志 代表取締役 社長執行役員

鳥谷 浩志(とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで 3D の研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量 3D 技術の 「XVL」 の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を 3D で実現することに奔走する。XVL は東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の 3D テクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3D デジタル現場力」 「3D デジタルドキュメント革新」 などがある。

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