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SPECIAL対談|お茶の水女子大学 × ラティス・テクノロジー
2023年9月11日
2023年
9月
理工系女子を育むお茶の水女子大の仕組み
~文化をデータ化し、可視化する~
本日は国立大学法人お茶の水女子大学(以下、お茶大)でビジュアライゼーションを研究し、その研究で、日本ソフトウェア科学会から2022年度基礎研究賞という大きな賞を受賞された、伊藤 貴之 先生をお招きして、ジェンダードイノベーションや理工系女子の人材育成を含め、お話を伺いました。
鳥谷:
本日は、この暑い中、ご足労いただき誠にありがとうございます。早速ですが、自己紹介からお願いできますでしょうか。
伊藤:
私は、2005年からお茶大で教鞭をとり始めて今年、2023年で19年目になります。組織として、今は理学部の情報科学科にいます。もちろん情報を勉強するのですが、数学科から派生してできた学科なのでカリキュラムにも理論的な科目が多く、データ分析主眼に研究室の運営を行っています。今は、AIやデータサイエンスと連携しての可視化を中心に研究しています。
鳥谷:
研究内容については後ほど詳しくお聞かせいただくとして、お茶大の前は、IBMで働かれていたのですよね。
伊藤:
はい、IBMの東京基礎研究所におりました。最初はCADと可視化のプロジェクトに取り組んでおり、CADのプロジェクトでは自動車会社との共同研究でCAEのメッシュ分割の研究をしておりました、その後は、分散システムや、セキュリティなど全く異なる分野の研究にチャレンジしました。製造業に関係する分野だと、中小の部品工場からの組立情報を分散DBに記録して、リコールが発生した際には、どこから調達した部品が悪かったのを辿り分析できる仕組みの構築に取り組んでいました。
鳥谷:
もともとは製造業に近いところを研究されていたのですね。伊藤先生とは、IBM時代に千代倉 弘明 先生の慶應の研究室でお会いしたのが最初の出会いになるでしょうか。
伊藤:
そうですね。その後、南青山でラティスの創業パーティーをやりましたね。その際もお招きいただいて、参加しました。
鳥谷:
その節はありがとうございました。あの頃はまだ会社として何をビジネスにするのかを模索している段階でした。その後、お茶大では、どのような研究に取り組まれているのでしょうか。
伊藤:
学生や共同研究者と最近始めた研究としては音楽や絵画の歴史を情報に置き換えて解析をしています。
鳥谷:
音楽の分析というと、クラシックでいえば、モーツァルトやベートーヴェンからどのような系譜で音楽が発展したのかというイメージで良いのでしょうか。
伊藤:
おっしゃられた通りです。バロックからモーツァルト、ベートーヴェンという古典派を経て19世紀、20世紀の時代の変遷とともに、どのように音楽が派生していって、複雑化しているかを分析しています。クラシック音楽ではそのようなことになります。一方ポップスでのサウンドの変化を研究した学生もいます。ポップスも当然変化しているのですが、この20年頑固に音が変わっていないと分析結果がでたのが、ミスチル(Mr.Children)です。
鳥谷:
ミスチルはどんな変化があっても自分のスタイルを変えないわけですね。ポップスの音はどのように変化してきたのでしょう。
伊藤:
変化のポイントは二つあり、一つは利用する楽器が変化したこと、そしてもう一つ大きいのは音楽を聞く環境が変化したことがあります。以前は大半の人が家で音楽を聞いていたところを、今は通勤時など外で聞くことが多いですよね。そうすると外で聞きやすい方向にサウンドが変わってきており、若い人たちになればなるほど、外で聞く方向に合わせて音楽を作っています。その点、ミスチルは20年間変わらぬ楽器で演奏し、録音技術も変えていないことが推察されます。
鳥谷:
そこがミスチルの昔からのファンには魅力で、変わらぬ人気の源泉となっているのでしょうか。絵画の研究の方はいかがでしょうか。
伊藤:
絵画では、フェルメールと同時代の画家とをコンピュータはどう見分けるのかということを学生とともに分析しています。人間の判断のポイントと、コンピュータの判断のポイントは、同じなのか、違うのかを解析しようとしています。こういった研究を通して、人が歩んできた文化のエッセンスを抽出し、車や生活用品といったもののデザインに、どのような文化的な要素を加えていくのが良いか、そういうところに還元していけないかを考えています。
鳥谷:
当時の画家たちの多くは光をどう捉えるかを工夫していたと思いますが、フェルメール風の光の表現をコンピュータに認識させて、その画風が他の画家とどう違うのかを判別しようということでしょうか。絵画の変遷の研究の結果が現代の工業デザインにも活かせるというのは興味深いです。それでは、お茶大の学生の研究テーマの傾向はいかがでしょう。
伊藤:
学生の研究活動は、女子学生特有の興味に沿うような研究テーマが多いことが特徴です。女子学生は昔からたくさん写真を取ることが多いですが、スマホの写真アプリなどがなかった時代に、写真をたくさん眺めたり、探し出したりするのに適したアプリを、可視化技術の一環として開発した学生がいました。
鳥谷:
2012年頃、Googleの猫の画像認識でAIがブレークしましたが、そのような画像認識技術に取り組まれていたということですね。
伊藤:
まさしくその通りです。画像認識の草分け的ソフトを利用していました。誰と誰がよく映っているかをデータ化して、バックエンドで友達グループを抽出するというようなことをやっていました。ちょうど2010年ぐらいで、Facebookで顔認識の機能が付き始めた頃にそのような研究をやっていました。その他に印象深かった研究としては、洋服を見ながら、気に入ったものにチェックを入れていくと、気に入った洋服の傾向を鑑みて表示するシステムを開発した学生がいます。
鳥谷:
こちらも現在実用化されているような技術を、先駆けて研究されていたのですね。独創的でかつ女性らしい着眼点の研究ですね。
伊藤:
やはり、女子大で全員女子だからこそ反響があり、続けられる研究テーマがあるのです。これが男子9割女子1割の割合だったりすると、1割の女子が発表しても、残りの9割の男子に響かないとモチベーションを上げにくい。100%女子だから増幅されるような研究テーマというものがあり、それはなかなか面白いところであります。
鳥谷:
昨今、私立の女子大などは生徒を集めるのに苦労しているとも聞きますが、女性ならではの独創的研究といったお話を伺うと女子大の存在意義がよく理解できました。他にも特徴的なことはありますか。
伊藤:
女性は就職してから、ばらばらな場所に配属されるよりは、連帯しやすいように配属した方が離職率も下がり、力を発揮すると聞いています。理系学部への進学においては、男子が9割を占める状況が怖い、そういった中でやっていく自信がないという女性も少なくないと聞きますので、女子大が果たす役割は大きいと思っています。
鳥谷:
面白いポイントですね。先生の研究室で、独創的な研究をされている学生さんはどういった進路に進まれているのでしょう。
伊藤:
伊藤研の学生はほぼ全員が大学院に進学します。大手IT企業に進む傾向が強く、研究員やITエンジニアとして活躍しています。博士課程まで進んだ学生の中には産総研などの研究機関に就職する人もいます。卒業生の中でも異彩を放つのは、機械学習やディープラーニングを活用した人工知能に関するプロダクトを提供している株式会社シナモンを起業した平野 未来さんで、彼女は学部時代私の研究室に所属しておりました。
鳥谷:
彼女は先生の研究室出身なのですね。よく日経のセミナーなどで講演されていますよね。ところで、伊藤先生は、ジェンダードイノベーションにも取り組まれていますよね。それはどのような研究なのでしょうか。
伊藤:
簡単に言うと男性が不利益を受けている、女性が不利益を受けているというような性差による社会問題を見つけ出し、それをイノベーションで解決するという学問になります。ある自動車の車種では男性よりも女性の方が事故時の重傷度が高かった、それは何故かを追求していくと、事故シミュレーションで使用するマネキンが男性モデル中心になっていたという事象がありました。それ以外にも、女性の方に副作用が発生しやすい薬があったりして、それを調査していくと、生理などの理由から男性の被験者が多くなっているためだったりと、性別の差が理由で不利益を受けるということは目にはなかなか見えませんが、色々と存在しています。
鳥谷:
普段意識したことはないですが、お話を聞くと、なるほどそういうことは確かにありそうだと感じます。
伊藤:
逆に男性の方の不利益もあります。私は料理をするのですが、180㎝近くある私の身長にはキッチンが低すぎて、腰が痛くなります。これもジェンダードイノベーションで解決すべきだと思っています(笑)。
鳥谷:
高さが変更可能な可動式キッチンが欲しいですね(笑)。結局、ジェンダーイノベーションの根幹は、社会的に蓄積されている様々なデータを可視化し、そこに性差による偏りがないかを見出し、課題解決へと導くということなのですね。
伊藤:
まさしくその通りになります。真夏のオフィスの空調の話ですが、女性の薄着の人は依然として暑い、厚着の人は依然として寒い。服の調整をしたぐらいでは、調整できない体質の差が女性にはあるということがわかります。それはどうも基礎代謝に関わっており、オフィスでの座席の配置は女性の意見を尊重してあげないといけないのです。そういうことをデータ分析から導いています。空調や、建物の設計などに役立てようという意図だと思うのですが、オープンデータが存在しています。
こういったジェンダードイノベーションの課題を根本から解決していくのには、ものを生み出す現場に女性を増やして、女性の視点をもっと取り入れていく必要があると思っています。そのために、理系の女性を増やしていく必要があると思っています。
鳥谷:
確かに、ラティスもエンジニアの大半が男性で、女性の比率を高めたいと思っていますが、なかなか採用できないのが実情です。
伊藤:
お茶大だけに限らず、現在多くの女子大で理系の比率を高めようとしていますが、お茶大では情報工学やデザイン工学と他の分野を融合した学際的な工学部を新設します。先日文科省より正式に認可がおりて「共創工学部」が来年、2024年4月に新設されます。そうなるとお茶大での理系の比率が40%を超えることになります。
鳥谷:
社会的な課題を文系の人間にも解決できるようデジタルを学ばせる文理融合型、一昔前だと慶應の湘南藤沢キャンパスのイメージでしょうか。
伊藤:
共創工学部は学科が二つあり、人間環境工学科は、家政学部から生まれた生活科学部の一部が工学部になったようなイメージで、建築、環境、材料などが中心になります。もう一方の文化情報工学科は、文学部と情報工学が融合した学科になります。研究としては、音声認識により言語を分析するとか、地理や歴史の分野をデータベースから解析するといったようなことをやろうとしています。
鳥谷:
今回の対談を前にして伊藤先生の ホームページ を拝見したのですが、お茶大の中でも先生は、多岐に所属され、ご活躍されていることに驚きました。
伊藤:
私自身は可視化という領域に取り組んでいるのですが、大学も社会に合わせて常に変化しており、有難いことに機会あるごとに声がけいただき、新しい研究に取り組むチャンスをいただいております。先ほどお話ししたジェンダードイノベーションも然り、AI・データサイエンスセンター、そして共創工学部も正しくそうです。
鳥谷:
世の中、政策も含めてエビデンスが必要とされるようになってきており、あらゆる分野でITやデジタルが必要となり、ジェンダーもAIも、共創工学もデジタルで何とかならないかとなっているのですね。ところで、ラティスのVR/ARソリューションはいかがでしたか?
伊藤:
改めて本日はXR製品の体験をさせていただきありがとうございました。コロナが始まって以来、久しぶりにXRの体験ができ、ラティスさんのVRやARのソリューションを体験することで、製造業での具体的な業務変革のイメージを掴むことができ感銘を受けました。
鳥谷:
製造業の中でも、先進ユーザの間では着実にXR導入の成果が出始めています。我々は3Dモデルに情報を集約することで、ものごとをわかりやすく伝えられるのではと考えています。もともと軽量XVLの中には3Dモデルに付随する多様な情報を統合することができます。部品番号やその組立手順や分解方法、また、価格情報や発注先といった情報です。XVL Web3D技術を活用することでタブレットや、スマホで3Dモデルとともにこれらの情報を簡単に見られるようになりました(参考:製品情報)。ここにAR技術を統合することで部品番号や購買の情報なども現物上に表示をするという仕組みも作りました。情報の集約された3Dモデルと現物を重畳し、情報を分かりやすく表示し、作業の間違いや、見落としなどを防ぐ効果を持たせることが出来るようになりました(参考:製品情報)。伊藤先生の研究との関わりという観点ではいかがでしょうか。
伊藤:
私の研究に関してですが、ARや、VRとは、分析と組み合わせることで、その付加価値を高められるのではないかと思っています。ARだと、ホワイトボードに何か文字を書くと、それに関連する棒グラフや折れ線グラフをARによって表示し、そこから得られた気づきをメモできるようになる。そうすると現物と重畳させながら、ああでもない、こうでもないと検討し、書き込んで議論する環境が作れるのではと思います。データの可視化と実空間をどう使えるかを考える上でのヒントをいただきました。
鳥谷:
コロナが終わって感じるのは、対面コミュニケーションだからこそ生まれる新たな発想や気づきがあるということです。ホワイトボード上のリアルな文字と関連データをグラフ化してARで同時表示するというシナリオは、仮想の3D世界とリアルなコミュケーションの良いところを組み合わせたもので、すぐにでも製造業でニーズがありそうなお話ですね。
伊藤:
もう一つは、AIによる動作の検証の可視化の文脈です。AIによるデータの判別結果が誤っているというのは、どういう時なのか。どこを見て、何をもってAIが判断しているのか、データを可視化することで探っていきます。例えば製造時に自動運転でどういうときにコンピュータがミスをするのかも同じですね。どこで判別を誤るのかが分かれば、AIの訓練データとしては何が最適なのかを考えるヒントになるでしょう。これは先の絵画の分析などと、原理は同じです。
鳥谷:
絵画の分析が、AIの判断の分析に繋がるというのは、非常に面白く興味深いですね。最後になりますが、今後の日本の未来を支えるのはどういうところになるとお考えですか。
伊藤:
文化こそが現代の日本で伸びしろのある学問だと思っています。ゲーム、アニメやコスプレなどの現代文化は日本から既に活発に発信されています。一方で、インスタやYouTubeでバズった場所や、アニメのモデルとなった場所を訪ね歩くことを、若者は聖地巡礼と言っています。そういった聖地巡礼は映像とともに伝播し、世界中の人を集めることができます。
私は、ものをつくるだけではなく、「どうやって人を動かすか」ということも広義のエンジニアリングと解釈しているのですが、日本特有の文化をどうエンジニアリングしていけるかに興味があります。日本特有の文化を解析して、その魅力を抽出する。そういったものをデジタル化して再構成することで、新たな日本の魅力を世界に発信することができることが日本の未来を支えるものの一つになるのではないでしょうか。
鳥谷:
古くから続く日本文化に伸び代であるというのは面白い捉え方ですね。AIで日本の持つ長い歴史にある演劇や文学を解析した結果として、新たなる聖地が誕生することがあるかもしれませんね。
伊藤:
そうなると、外国人もインバウンドでたくさん訪れるようになり、地域振興などにも役立ちそうです。この流れで色々考えてみると、ラティスさんの軽量3Dを使って現地に来たくなるような3Dコンテンツを作成し世界に発信するというような発想もあるでしょう。ある自治体ではAIを使い、ある部分はリアルある部分はアニメーションでプロモーション動画を作成し注目を集めました。
鳥谷:
XVL VRにも遠隔地で3D体験を共有する機能があります(参考:プレスリリース)。ニューヨーク、ロンドン、ベルリンなどにVRでの3D体験センターを作ると面白そうですね(笑)。本日、伊藤先生のお話を伺って可視化の研究が製造業にも貢献できること、またデジタル人材の不足や女性の活躍という日本の喫緊の課題に対して、これからのお茶大、そして共創工学部での取り組みが非常に重要であることが理解できました。
伊藤:
ありがとうございます。海外の大学では理学部や工学部というレベルで情報学部があるのが多いのに対して、日本では分野融合型の情報の学部こそありますが、純粋な理工系人材を育成する情報学部はまだ少なく、そのぶんIT人材が慢性的に不足しています。そのため、大学でITを勉強せずにITの仕事に就く人が海外よりも多いのが現状です。今後は大学院などでITを改めて学ぶというようなケースも増えてくるでしょう。
鳥谷:
本日はお忙しい中、面白いお話を聞かせていただきありがとうございました。伊藤先生の下、お茶大から、今後益々優秀なデジタル人材が輩出されることを楽しみにしております。また、そういう人材が、ラティスで新しい3Dテクノロジーの活用にチャレンジいただける日が来ることを、期待しています(笑)。
END
【用語解説】
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