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製造業 DX × 3D 成功のヒント|05.「ムーアの法則」と 3D フォーマット

2022年2月15日

05.「ムーアの法則」 と 3D フォーマット

ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志


2020年3月に世界保健機関 (World Health Organization: WHO) が新型コロナのパンデミック宣言をしてから 2年が経とうとしているのに、変異株オミクロンの感染は止まりません。感染した人から他の人に感染するまでの時間がわずか 2日というオミクロン株の増大はまさに指数関数的です。ワクチン接種効果もあって、重症化リスクは少ないとのことですが、この急激な増加ペースによって、保育園や学校、交通機関、清掃など社会基盤を止めてしまうリスクが懸念されています。指数関数的な変化のもたらす社会への脅威をまざまざと感じます。

「ムーアの法則」 に適応できない社会

IT 業界において、この指数関数的変化をもたらしてきたのが有名な 「ムーアの法則」 です。インテルを創業したゴードン・ムーアの提唱したこの経験則は、「半導体の集積率が 1年半で 2倍になる」 というものです。同じ面積にトランジスタ素子が倍々に構成できるようになると、劇的な性能向上と低コスト化を生み出すことができます。この結果、CPU の処理速度、データの保存容量、ネットワークの帯域幅が急激に改善され、それがセンサーの小型化やソフトウェアの発展を促し、ここ十数年で社会は急速に変化してきました。

一方、IT の進化と社会の適応能力には大きなギャップがあります。スマホやインターネットなど個人で使いこなせばよいだけであれば、あっという間に社会に浸透します。しかし、社会で IT を効果的に利用するとなると、複雑な利害関係が絡み、旧来からの習慣をなかなか変えることができません。これは複雑なプロセスと人間関係から成る会社にもあてはまります。

図1.ムーアの法則とデジタルトランスフォーメーション

実は DX (デジタルトランスフォーメーション) の難しさはこのギャップにあるのです (図1)。デジタルの部分は進化しても、社会も会社も適応、つまりトランスフォームできないのです。そう考えると適応の遅い社会に先行して、どれだけ会社を、進化する IT に適応させ利用していくかが、その会社の DX であり、だからこそ DX が競争力になるのでしょう。

ムーアの法則に追従できないものづくり IT 基盤

このムーアの法則に引っ張られて、デジタルツインや IoT、AI、5G といった技術が生まれ、今、メタバースの時代を迎えようとしています。一方、ものづくり IT 基盤の進化を考えてみると、実はムーアの法則よりかなり遅れているように感じます (図2)。

3D CAD が 1980年代に出現し、30年以上たったというのに、2020年のものづくり白書では 3D 設計のみという会社は 17% しかありませんでした。3D CAD フォーマットの STEP も 1990 年代半ばには ISO 化されましたが、それが日本で普通に流通するまで 15年はかかったでしょうか。2014年に策定された図面内にあってアノテーションを表現できる STEP242 が本格的に流通を始めるのは、まだこれからでしょう。

このように、ものづくり IT 基盤の進化が遅れているのは、ムーアの法則がテクノロジーだけで進化するのに対し、ものづくり IT はヒトとモノに引っ張られて進化と普及が遅いからでしょう。

図2.ものづくり IT 基盤の進化

ものづくり IT 基盤を支える 4つの 3D フォーマット

今回はこのものづくり IT を支える基盤技術の一つとして 3D フォーマットを話題に取り上げましょう。3D CAD データ変換で著名な株式会社エリジオンの CTO(最高技術責任者)の相馬淳人氏と 2021年に対談 (記事) した内容を参考にしています。

この対談では、ISO (国際標準化機構) で認定された CAD データを高い精度で表現する 3D フォーマットとして 1) STEP、2) JT、3) 3D pdf、4) QIF の 4種類を取り上げました。ここに記載した 4つはいずれも 3D CAD 内部の 3D 表現である BREP (Boundary Representation:境界表現) を CAD 精度のまま保持することができます。

1) STEP

かつて、3D CAD データというとまず形状データが重要でしたが、CAD で作成する 3D データの品質が向上し、むしろ図面にあった公差や注記といった情報やアセンブリ構造といった情報が重要になっています。実際、STEP では、航空宇宙業界向け AP203 と自動車業界向けの AP214 が統合され AP242 となり、さらに図面にある PMI (Product Manufacturing Information: 製品製造情報) やハーネス、締結情報なども追加されています。CAD データ交換から出発して製品情報のデータベースの基盤として発展してきました。

2) JT

表示用のポリゴン表現部分が ISO 化されています。CAD データ交換に利用される BREP 部分は正式には ISO 化されていません。JT の BREP 部分は、シーメンス社の CAD である NX など複数の CAD で利用されている 3D カーネル Parasolid のフォーマットなので、それらの CAD からは当たり前に出力することができます。したがって、JT の BREP も CAD データ交換の世界では実運用上、よく利用されるフォーマットになっています。もちろん、アセンブリや PMI も表現することができます。

3) 3D pdf

ドキュメントの世界で利用される pdf 内で 3D を見るためのフォーマットです。ここにも表示用のポリゴンと BREP の両方が含まれています。pdf ですと表示用途が多数を占めるでしょう。表示だけであればポリゴンで十分なので、BREP を持っている意味はあまりありません。このためでしょうか、STEP の BREP も扱えるように 3D pdf を拡張しようという動きがあるようです。

4) QIF

形状データに PMI 情報を加えることで計測や検査に利用するために提案されたフォーマットです。図面の流通を減らすには、そこにある PMI 付きの 3D CAD 情報を流通させてしまおうという意図で、米国の農機具大手のジョンディア社が主導して標準化しました。公差情報にすべて ID を割り振って、検査結果を統計的に分析するところまで視野に入れているとのこと。設計部門での 3D CAD による公差の入力方法の標準化から着手する必要があるので、普及するのは少し先になりそうです。

上記の ISO が認定する 4つのフォーマットは、役割が重複するところもあってユーザーの混乱を生んでいる面もあります。フォーマットが公開され、それが業界利益となるのであれば標準として認定するというのが ISO 方針のようです。

また、これらを組み合わせてデータ交換を促進する動きもあります。たとえば、STEP の AP242 でアセンブリ構造を表現し、JT で 3D 形状を表現するという方法でデータ交換をしようという動きも自動車業界にはあります。これらのフォーマットは高い精度を持つとはいえ、異なる BREP 間で変換を行うと、数学的な近似が起こるので注意が必要です。

たとえば、シーメンス社の 3D CAD である NX 間を JT でデータ交換するのは合理的ですが、ダッソーシステムズ社の CATIA と NX の間を JT で変換するのは、東京から大阪に行くのにわざわざ金沢経由で行くような印象があります。異なるフォーマット間で変換をする場合には、ヒーリングするなどデータの正当性を確認した上で利用した方が安全でしょう。

超軽量 3D フォーマット 「XVL」 の位置づけ

これら高精度の 4フォーマットと弊社が開発したの超軽量 3D フォーマット 「XVL」 の位置づけをざっくりとまとめたのが、図3 です。STEP や JT と異なり、XVL は “3D CAD データ交換” ではなく、エンジニアリング検証からドキュメント利用まで幅広く “3D データ活用” するためのフォーマットです。各 3D CAD の BREP データから XVL 変換することが出来、3D CAD に近い精度を持ちながら、データを最大百分の一に軽量化することで、軽快に 3D データを扱うように設計されています。

STEP や JT が何でも積み込める大型トラックだとすれば、XVL は電動自転車のようなイメージでしょうか。混雑した商店街や路地の奥まで行きたければ、自転車の方がはるかに手軽で便利です。

図3.3D フォーマットの特性

3D CAD データ交換フォーマットとなると、異なる CAD 間を結ぶフォーマットになるので、国際標準化してフォーマットを公開することが重要でしょう。ただし、仕様策定や利用にヒトやモノに密接にかかわるので、技術の進化と普及は遅れます。

一方、3D データ活用となると、最新のハードウェアやネット環境を生かしながら、ユーザーの利便性を実現していくことが重要です。IoT 機器や AR/VR/MR はムーアの法則にのっとり急激に進化します。それに追従しようとすると、3D フォーマットの上位互換性を保ちながら、柔軟にフォーマットの拡張を行うことが重要です。こうして最新の IT 基盤に追従して最適に 3D データ活用できるよう XVL は進化しているのです (図4)。

図4.製造業 DX × 3D を支える XVL の進化

ムーアの法則の支配する IT 基盤と、変化の遅いものづくり IT 基盤の間に XVL の進化は位置します。このような柔軟な拡張性を持つことが、指数関数的な変化をする IT 基盤に追従しながら、製造業の DX×3D を実現する上では重要になってくるでしょう。急増したオミクロン株感染に対し、社会が柔軟な対応をしなければならないように、指数関数的な変化に柔軟な対応をすることで、製造業 DX×3D を盤石に支援できるようになるのです。

END

・XVL はラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名および製品名は各社の登録商標または商標です。

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著者プロフィール

鳥谷 浩志 代表取締役 社長執行役員

鳥谷 浩志(とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで 3D の研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量 3D 技術の 「XVL」 の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を 3D で実現することに奔走する。XVL は東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の 3D テクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3D デジタル現場力」 「3D デジタルドキュメント革新」 などがある。


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