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SPECIAL 対談|CIO Lounge × ラティス・テクノロジー

2022年4月14日

2022年
4月

IT を経営の羅針盤に
~ CIO が企業内外のつながりを生み出し、製造業 DX を推進する ~

今回の SPECIAL 対談は、ユーザ企業で、IT 化、DX を進めた自身の経験を元に、悩みを抱える企業の相談相手となり、情報化社会の発展を図る特定非営利活動法人 「CIO Lounge」 を立ち上げられた、理事長の矢島 孝應様にお話を伺いました。

特定非営利活動法人 CIO Lounge 理事長 矢島 孝應 様とラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志

CIO Lounge の設立背景

鳥谷:
本日はお忙しい中、お時間を頂戴し、ありがとうございます。矢島さんには、2018年の弊社主催 XVL 3次元ものづくり支援セミナーで、大変素晴らしいご講演をいただいたこともあり、今回の対談を楽しみにしておりました。早速ですが、自己紹介をお願いします。

矢島:
私は、1979年、松下電器産業に入社したところからキャリアが始まりました。1997年からの 5年半はアメリカ松下電器で、情報システムを取り仕切る MIS (Matsushita Industrial Standard) のジェネラルマネージャーを務めました。帰国後は、松下グループ全体の情報システムの責任者、その後三洋電機を統合した際に、三洋電機で執行役員 IT システム本部長になりました。

鳥谷:
IT の責任者を統合先に派遣するのは珍しいですね。背景に何があったのでしょう?

矢島:
当時の中村会長が、“IT 革新なくして、経営革新なし” という方で、企業経営における IT の重要性を唱えている方だったからです。松下電器では、社長自ら IT 革新本部の本部長となり、工場、開発分野と情報系のシステムを管轄していたのです。

残念ながら、三洋電機では、事業や人の整理を断行する立場になって、このまま会社に残るわけにはいかないと思い、学校の先生になる予定でした。そんな中、ヤンマーからお声がけ頂き、結局そちらで仕事をすることになりました。

鳥谷:
ちょうどヤンマーさんが創業 100周年を迎えられ、大改革を行われていたタイミングですね。矢島さんがヤンマーでまず、何を変革されたのでしょうか?

矢島:
松下電器とは対照的に、当時ヤンマーでは、IT の所管が、それぞれの部門に分かれていました。そこで情報システム部門が製品開発から製品に組み込む IoT やその IoT のデータの管理に至るまで、製品分野からビジネス分野まで入り込む体制を作りました。

鳥谷:
まずは組織変革からだったのですね。具体的な成果はどうだったのでしょうか?

矢島:
いろいろあります。例えばラティスさんの XVL の力を借りて、3D データの活用、部品表の再構築を進めることができました。大半の企業で CAD の 3D データや部品表は開発部門が進めており、開発部門に適した形態になります。

しかし、我々は、それを如何に製造やサービス、また営業で使えるものにするかというところに腐心しておりました。その節には、大変お世話になりました。

鳥谷:
貢献でき幸いです。3D データの活用、部品表の再構築は、まさに XVL が得意とするところです。

矢島:
確かに製品開発の効率はもちろん重要です。しかしながら、せっかく作った 3D データや部品表を、製造やサービスなどで利用しないのは勿体ない。とはいえ、開発のメンバーに他部門でも使えるようにその辺りを考えなさい、というのは、彼らの仕事ではありません。

一方、製造やサービス、営業部門からは、開発の 3D データの活用までは、なかなか思いつかない。そういった意味で、情報システム部門が関わって初めて 3D データの活用が推進されたのです。

鳥谷:
部門をまたいで最適な IT 化を進めていったということですね。まさに、我々の進めている 「製造業 3D × DX (デジタルトランスフォーメーション)」 の入り口にあたります。

矢島:
部門をまたがっての情報活用やプロセス連携というのが我々の仕事で、存在価値でした。昔は、経理は経営の羅針盤とよく言っており、お金の流れを全部掴むことで経営を把握するということをやっていました。それが、今ではプロセスやデータで企業を見るということに変わってきました。

鳥谷:
ツールを使いこなすだけであれば、各部門で済むのでしょうが、俯瞰したプロセス、システムの連携が情報システム部門の価値というわけですね。その後、矢島さんは 「特定非営利活動法人 CIO Lounge」 (ホームページ:https://www.ciolounge.org/about.html、以下、CIO Lounge) を立ち上げられたわけですが、この背景には何があったのでしょうか?

矢島:
松下、三洋、ヤンマーでの経験を通して、IT と経営は表裏一体 だと改めて確信しました。しかし、多くの会社に話を聞いてみると、それが実現出来ているところは少ないというのが実感です。

昨今でも経営者の方には、IT は苦手だとか、わからないと言う方がおられます。しかし財務諸表がわからないとか、人事や組織管理ができないと公言する経営者がいるでしょうか。IT がわかりませんという経営者は、欧米では存在しえません。

日本の経営者の IT に対する認識は、まだまだその程度なのです。まずは、そこをサポートしていきたい、そんな想いで CIO Lounge を立ち上げました。

鳥谷:
まだまだ IT はコストセンターという意識の会社が多いとは感じています。IT を攻めに使うのか守りに使うのかのという発想の差でしょう。他にも問題と感じている点はありますか?

矢島:
もう一つが、IT ベンダーとユーザーがうまく連携できていない という点です。IT ベンダーは、機能については説明できるのですが、それがユーザーの抱えているどのような課題を解決してくれるのかを説明できないのです。

鳥谷:
それは、われわれ IT ベンダーにとっても耳の痛い話です。

矢島:
私はゴルフに例えて説明するのですが、メーカーの皆様はゴルククラブのシャフトやヘッドの素材がどれぐらい優れているのかを説明されます。しかしながら、ゴルファーが欲しているのは、そういった優れた素材なのではなく、たとえば、曲がらない、あるいは、飛距離が出るゴルフクラブです。とはいえゴルファー側も、何が苦手なのか、どのような機能を欲しているのかを伝えきれていないのが現状です。

このギャップを上手く埋めてくれることで、無駄な時間をお互いに減らす役割を担えればと立ち上げたのが、CIO Lounge になります。そういった使命感で立ち上げた組織ではありますが、共感してくれる方々も多く、OB、現役を含め 40名以上のメンバーが加わっています。

鳥谷:
なるほど、現役のメンバーも加わっているのは心強い。まさにコーチングプロの集団ですね。

初めてお会いした時、矢島さんがヤンマーの CIO (Chief Information Officer) の立場で取締役だったことが強い印象に残っています。日本の製造業において、CIO がボードメンバーに入っていないことが、各社が DX に強く踏み切れてない一つの大きな要因になっているのではないでしょうか。

矢島:
おっしゃる通りで、経営と IT の橋渡しをしながら、そういった人材を育てていく必要があると思っています。

CIO Lounge 理念 (CIO Lounge 提供)

CIO として心がけていたこと

鳥谷:
矢島さんの CIO としてのモットーはどのようなものでしたか。

矢島:
私は、現場を実際見ること を大事にしていました。

ヤンマーでも、海外の現場を見たいと要望しタイの農家を 1週間かけて回りました。現場を回っていると地元の人が集まってくる。なんでだろうと思っていたら、LINE でそういった情報が出回り、結果人が集まってきていたのです。タイでは、驚くほど LINE の普及率が高いのです。

鳥谷:
タイでも LINE が生活の中で、当たり前に使われていたのですね。それはそのままビジネスでも使えそうです。

矢島:
そうなのです。私は LINE を使って保守サービスの初期対応をしてはどうか提案しました。場所によってはサービス拠点まで往復 4時間かかる。お客様を待たせることになってしまいます。たとえ出向いても、まずは見て聞いて、あたりを付けるところから始まります。

それよりも LINE で写真や動画などのやり取りした方が、お互いの効率がはるかに良い。

鳥谷:
それは理にかなっていますね。我々のお客様でも、サービスマンがタブレットで 3D を見ながら保守点検を行う (参考動画) というようなところで、サービスの DX に取り組む企業が出てきております。

矢島:
また、予防的にオイルや部品の交換を提案しても、問題なく動いているのに何故となかなか思うようにいかないこともありました。

タイでは、女性が購買の決定権を持っていることが多かったのです。そこで、農機に愛称を付け、家族のように考えてもらえるような提案をしました。「放っておいたら XXX ちゃんが病気になるので、その前にオイル交換しましょ」 と言うのは理解してもらいやすいでしょ (笑)。

鳥谷:
それは分かりやすい、面白い話ですね (笑)。

矢島:
こういうのは、テクノロジーの可能性を知っているからこそできたのだと思うのです。やはり自ら現場に行ってみて気付くことは数限りないです。CIO も CTO (Chief Technology Officer) も、もっと現場に足を運ぶべきだなと思っています。

鳥谷:
矢島さんの関西人のノリというのも、大事かもしれませんね (笑)。

矢島:
技術、テクノロジーを知り、それが実現できることを自ら探求していかなくてはならない。昨今は、アジャイルや PoC (Proof of Concept:概念実証) というものが一般的になり、失敗してみてもやってみたらとか、短期でやってみたらというような環境は整いつつあると思っています。進んでみて上手くいかなければ、そんな部分も含めて橋渡しをしたいなと思っています。

鳥谷:
製造業も B2C (Business to Customer) に近づいていますから、そういった面白おかしさということも重要になってきますね。

ところで、このコロナによって IT 投資に積極的な企業と、消極的な企業が二分化しているということを聞きます。このあたり、どう感じていますか?

矢島:
面白いことに、IT 投資に積極的な企業が 4割、消極的な企業が 6割との数値が出ています。消極的な企業は、経費や、販管費などと同等に IT 投資を削っています。その一方で 4割の企業は、IT / デジタル化により、効率化と新たな取り組みを進めています。そんな中、IT ベンダー側は売り上げを伸ばしている。

鳥谷:
ということは、IT 投資に積極的な企業が、消極的な企業分まで補うように数倍規模の投資を行っているということですね。

矢島:
そうです。この結果、数年後には企業競争力に大きな差がつくでしょう。IT 投資を絞ることで、目先の利益は大きくなります。しかし私は贅肉だけでなく、筋肉もそぎ落としているのではないかと心配しています。このコロナの影響で、経費が減り、利益を出して安心している企業が少なくありません。

鳥谷:
筋肉まで削っていては、アフターコロナの時代にはもう走り抜けなくなりますね。私も同じ印象を持っています。

XVL ユーザーでも進んでいるところは、コロナにより IT 化がますます進んだという印象です。製造業のお客様でもリモートで仕事をする環境を整えられたお客様も多いですが、先進的なところでは、「リモート 3D ワーク」 (参考 Tips) という形で、XVL を使用して在宅環境で仕事を進めることが可能になったという話も聞きます。一方で旧態依然とした企業も多いですね。

矢島:
コロナになって明らかになったのが、いまだ紙がいっぱい残っているとか、連絡がとれないとか非常に初歩的な話なのです。

これまで、基幹システムや経営情報データベースの統合に時間も費用も使ってきた。それなのに、せっかく経営情報データベースを整備しても、実際の経営会議の場では紙で印刷されて配られたりしている。

鳥谷:
データベース上は、リアルタイムの情報が見えるのに、経営会議では先週の情報を紙に印刷して議論しているということですね。IT 投資の結果を生かして鮮度のよい情報で経営判断していない

矢島:
そういうことになります。IT を専門の技術だと見せすぎたことは、私たち情報システムを企業で進めてきた者として反省する点もあります。

IT は、あくまでも 目的を達成するための手段、ツール でしかないのです。英語がコミュニケーションの手段であることと一緒です。そのこともあって、ヤンマー時代は 「全社員 SE 化」 という方針を出してデータの民主化を図りました。

DX とは?

鳥谷:
データの民主化ですね! 我々も 3D データの民主化を図るというコンセプトで、「Casual3D」 (参考コラム) という言葉を考えました。全社で 3D データ活用をして業務効率の最適化を図る、まったく同じですね。これが製造業の DX を実現する原動力になるだろうと考えています。矢島さんは DX をどう定義していますか?

矢島:
学問的な定義ではないかもしれませんが、DX とは デジタルの改革 でなく、ビジネスの改革をデジタルで行うもの です。

DX って?(CIO Lounge 提供)

鳥谷:
矢島さんの定義でいくと、DX は IT で生産性をあげようとか、サービスマニュアルをデジタルで作ろうということとは次元が異なる話ですね。

一方で、たとえば、農機を製造販売していたビジネスモデルを根底から変えろという話は簡単ではありません。

矢島:
仰る通りです。DX は会社にとって起業を行うのと同じこと なのです。DX をやってすぐに売り上げを上げようという考えは、ナンセンスだと思っています。

農機にセンサーを付けようという話に限定しても、誰がそのセンサーの費用や日常の通信費用を負担するのかということは大きな論点になります。目先のことだけ考えれば、押し付け合いになるでしょう。ヤンマー時代には、100年後の食生活守るという企業使命のもと進めることができました。

鳥谷:
企業使命に立ち戻って、農業全体のエコシステム (生態系) を考えるのが DX だということでしょうか。とても壮大な話になってきました。

矢島:
目先ではなく、次の 100年を見据えた農業の革新が求められています。

単純に農機のスピードを上げるだけでは農業の効率は上がりません。農機に積む苗のロジスティックスから始まって、全体を見据えたプロセスから考えないと 全体の効率は全く上がらないのです。

DX で短期に利益を得ることは困難 (CIO Lounge 提供)

鳥谷:
現実に立ち戻って DX を成功させるためには、組織はどうあるべきだと考えますか。誰が推進者となるべきでしょう?

矢島:
私は、IT 部門が DX を推進すべきだと思っています。DX を進める部隊の人選をどうするかは、なかなか難しい話です。

私が DX を進める際には、自分の仕事時間の 5% を新しいことをやってみるために割くように仕向けました。その中から提案してきた一部の人を DX チームに引き入れました。

やはり自分で実際何か新しいことをやってみようと思う人間でなければ DX は難しいと思います。最近では、江戸時代の長崎・出島のように、既存の組織から切り離して、上司や同僚から横やりが入らないようにするという会社も増えてきています。

鳥谷:
現業に縛られている人ではなく、IT 部門の変革へのモチベーション高い人か、そういう人を集めて独立組織にした方が DX 成功の可能性が高くなるのですね。それでは、DX で先行するアメリカや中国に対して、これからの日本の製造業は何を強みにしたらよいとお考えですか?

矢島:
私は、日本のモノづくりのカルチャーは素晴らしいと思っています。今後は、日本が強みを持っているハードの強みに、いかにソリューションを付加していくかが重要です。それを実現することで、日本ならではの強みを発揮できると思っています。

実は、アメリカや中国よりドイツの方が手ごわいと思っています。現在の社会課題は、脱炭素化や感染症対策といったように、一社では太刀打ちできないものばかりです。企業や、パブリックセクターがつながり、エコシステムを作って対処していく必要があります。ご存知のように Industry4.0 といったような取り組みを、ドイツは国家を上げて取り組んでいます。

鳥谷:
先ほどの農業の効率化の話と同じですね。これからの社会課題を解決していくためには、まずエコシステムを作って、一緒に解決していくという方向性が大事ということですね。

矢島:
そうです。ですから、内向きに入っていくと上手くいかないのです。

CIO Lounge では、横でつながり共有していく、知恵を絞り出す役割を担っています。CIO は孤独です。孤独が故に CIO はもっともっと横のコミュニケーション、コミュニティーを重要視すべきでしょう。

鳥谷:
そういう壮大なシナリオの中で、ある意味ニッチな 3D の役に立てる場面はあるでしょうか?

矢島:
昔、アメリカに住んでいた頃、語学力不足を補うのに、良くホワイトボードに絵を書いて説明していました。そうしたところ、何故そんなに絵で上手に表現できるのだと皆に感心されました。これは、日本語が象形文字に由来しており、日本人は絵に関する感性が優れているのでしょう。

DX 実現において今後重要となってくるのは、絵や 3D データという非構造化データの活用です。やはり絵や 3D というのは、物事を直感的に理解させる力があり、ラティスさんの XVL にも大きな期待をしています。

鳥谷:
我々は 「3D デジタルツイン」 (参考コラム) というコンセプトで、試作品の代わりに 3D でデジタル擦り合わせを行うことを提唱しております。

例えば設計ではそれで VR 検証を行い、また、サービス現場ではまた AR を使って現物の上に 3D デジタルツインを重ねてサービス指示をしたり、必要な製品の属性が見られるといった具合です。

矢島:
それは面白い話ですね。是非とも教えて下さい。

鳥谷:
話は尽きませんが、そろそろお時間となってしまいました。今後、CIO Lounge さんと一緒に出来るところも多いと確信しました。本日はお忙しい中、お話し頂き有難うございました。

END

・XVL、3D デジタルツイン はラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名および製品名は各社の登録商標または商標です。

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